肝炎ウイルスの1つのA型肝炎ウイルス(HAV)により引き起こされる急性ウイルス肝炎をA型肝炎とよんでいます。
疫学
A型肝炎の発生は衛生環境に影響されやすく、発展途上国では蔓延していますが、先進国では上下水道などの整備により感染者は激減しています。しかし、HAV感染の少ない状態が長期間継続すると抗体陰性者が増加します。最近の日本のA型肝炎発生状況は、年間500人前後の報告がある、罹患年齢では乳幼児や学童は稀で高年齢化が認められる、冬から春・初夏にかけての発生が多いなどの特徴があります。
感染経路
糞便から排泄されたHAVで汚染された食物や水を摂取することで感染が成立する糞口感染やカキなどの魚介類の生食などによる経口感染が主たる感染経路です。衛生環境が改善し、大規模な集団発生はみられなくなりましたが、輸入食料品からの感染や海外渡航者の感染がみられています。1995年から国産の不活化ワクチンが使えるようになっています。
診断
HAVに感染後、平均4週間の潜伏期を経て、急性肝炎を発症します。発熱、全身倦怠感などに続いて血中のAST、ALTが著明に上昇します。食欲不振や嘔吐などの消化器症状を伴い、黄疸や肝腫大などが出現します。小児では多くは無症状や軽症です。A型急性肝炎の診断は、血中のIgM-HAV抗体陽性を確認します。感染症法では4類感染症に分類され、医師は保健所に届け出る必要があります。
経過
対症療法で1〜2カ月の経過の後に回復し、慢性化せず、予後は良好ですが、高齢者などではまれに劇症肝炎を発症して死に至ることがあります。「38)劇症肝炎とは?」で述べましたが、昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症を併発して劇症肝炎と診断された場合は、専門医療機関での治療が必要で、血漿交換を中心とした人工肝補助療法を開始します。